私は鍼灸を仕事にしています。小さな子供をつれてくる親御さんは、「薬はあまり飲ませたくない。鍼灸のように自然な方法がよいと思って」と、そんなところが動機になっていらっしゃるようです。ところがそういう親御さんとお話してみると、その要求はぜんぜん自然ではない現実にぶちあたります。多くの方は、西洋医学的な発想のことを、他の代案でやろうとしているに過ぎません。例えば咳が出ているなら「咳を止めてください」という。現代医学の薬には「毒性」があるからあまり飲ませたくないが、咳は止めてあげたい。そこで、ホメオパシーだとか鍼灸だとか、そのほかの民間療法だとか、なんでも登場してきちゃう。これって本当はとてもおかしいことなのです。方法論だけが自然をもとめ、発想は現代医学のままです。現代医学を「不自然の代表」のように言っていながらですよ。自然、不自然をいうならば、それはまず物事の捉え方、発想を考え直さなければならないでしょう。違った発想で考えてみれば、咳ひとつとってみても、その症状はあったほうがよいと結論されるかもしれない。「自然な」という形容詞は、そういう世界に存在する気がします。そして、もしもそのときに、「いいえ、私はないほうがよいと思う」と結論されるなら、その発想に適合した方法論を選択すべきと思います。