結核は結核の患者さんからしか伝染しませんから、一概にBCG接種後の罹患率は?と言っても答えられないですね。家族や接触する人間にまったく肺結核の患者さんがいなければ、少なくともその間はBCG接種の有無にかかわらず罹患率はゼロでしょう。しかしたとえば仮に家族に大量排菌の肺結核患者さんがいた場合、その家族が「感染」している可能性は30〜60%くらいとする教科書が一般的です。結核の場合、通常の成人ですと感染しても発病するのはそのうち10%程度と教科書に書いてありますが、特に4歳以下の小児の場合にはこの確率が高くBCG未接種時で50%以上とする専門家もいらっしゃるようです(この数字は発病の定義にもよりますが)。この数字を採用すると、家族に大量排菌の結核患者さんがいた場合BCG未接種の乳幼児が「発病する」確率は15〜30%という計算になります。教科書的にはこの確率がBCG接種によって50%程度減ることになっていますから、その場合には12.5〜15%程度という計算になります。あくまで計算上ですが。しかし、乳幼児期のBCG接種の意義の多くは悲惨な結核性髄膜炎や結核性の「敗血症」の予防にあります。家族に大量排菌の肺結核患者さんがいた場合のこれら重症結核の罹患率のデータはありませんが、これら重症結核に対してBCG接種は罹患率を75〜90%程度低下させるとされています。大阪の小児科の先生のデータでは結核性髄膜炎の小児患者さんの90%以上がBCG未接種であったといいます。BCGを受けたほうが最終的に子供さんにとって有益かどうかは、周りに結核患者さんが出現するかという確率に大きく左右されるだろうと思います。しかし肺結核の症状は一般に軽く、早期発見はいくら気をつけても難しいのが現状です。子供さんの結核が見つかって初めて親が以前から結核であったことがわかるケースは珍しくありません。いくらからだが丈夫なかたでも発病するときには発病します。現在のBCGは接種局所の傷ができるだけすくなるなるように日本で特別に開発されたものです。海外で一般的に行われている皮内接種よりも副反応が少なく、現在韓国(韓国では現在70%くらいの乳幼児が日本のBCGを使用しています)やブラジルへも輸出されています。ただし、その反面、接種が弱いと十分な免疫がつかないという問題があります。十分に免疫をつけてあげるには強く接種する必要がありますが、強く接種すると当然その後の傷跡が多くなります。しかし、多くの場合局所の赤みや潰瘍は一過性で大きくなれば針の痕だけになる場合がほとんどです。私は接種する際には(時にはお母さんがびっくりするくらい)できるだけ強く接種するようにしています。せっかく接種するのですから、確実に免疫をつけるほうが一過性の傷跡の程度よりも重要だと考えています。今後日本人の小児で回りに結核の患者さんが出てしまう可能性は高くはないのでしょうが(発展途上国に親とともに赴任される場合は別ですが)、万が一おじいさん等が結核になってしまった場合のこと、そしてまれな疾患とはいえ万が一悲惨な結核性髄膜炎になった場合のことを考えると、やはりBCGは接種したほうがいいというのが私の個人的な意見です。BCG接種を躊躇される親御さんにはそのように説明していますが、やはり決心がつかない方が多いようです。