II.調査研究
3.成績
B.県内のワクチン非接種地域と接種地域の流行状況比較
2)国保診療費から見たインフルエンザ流行
インフルエンザの流行は医療費にどのような影響を与えているか,インフルエンザワクチンを接種しているかどうかがそれに関係するのか,これについて,われわれに比較的容易に手に入りやすい国民健康保険の診療費統計を用いて検討した。
方法は,〔表10〕摘要欄に示したごとく,通常のインフルエンザ流行期の前にあたる9月〜11月と,インフルエンザの流行期を含む12月〜2月につき,非接種地域(前橋市と安中市の合計)と接種地域(高崎市,桐生市,伊勢崎市,太田市の合計)に分けて,診療件数,診療総点数,一件当たり点数を比較した。ただし1985年度は流行の中心が12月にあったので,8月〜10月と11月〜1月分について比較した。比較の方法としては,途中で老人保険法を含む保険制度の改定があったりしたので,先に述べた流行前と流行後との比を見ることにした。
〔図6〕は,その比を図示したものである。比が1.0であれば流行前期と流行期の件数や点数が変わらなかったことを意味する。それより大きければ増加,小さければ滅少を示す。図を見れば分かる通り,流行前期と流行期の間に有意の変動は認められない。かつ非接種地域と接種地域の間にも差は見られない。
以上の結果から,学童に対するインフルエンザワクチンの集団接種をやるかやらないかは,医療費の面においても大きな影響を与えていないことが分かった。
しかしこの結果について,われわれが意外に思ったことが二つある。その一つは,特に小児科の診療所などでは,インフルエンザの流行期に一致して,年の内で一番忙しい時期を迎えるのが常である。ところがこの統計で,例えば受診件数で見ると,比が1.0を僅かに上回るに過ぎない。すなわち受診者全体として見れば,たいした数ではないと言うことである。
二つ目は,老人保健法成立前の1982年の場合,どの比も1983年度以降に比べて押しなべて低いということである。これはどのような関係になっているかというと,老人保健法施行により,この対象者の受診件数が約30%減少した。従って,一般国保では流行期に平均約2%受診件数が増加するのに,老人保健法対象者すなわち70歳以上の人は,逆に約2%減少したということを意味する。インフルエンザの流行期には,老人受診者の足はむしろ遠のくのか。老人を含む年度は単年度なので,真の結論を出すには,今後の検討に待たなければならない。
いずれにせよ,インフルエンザワクチン接種を中止しても,医療費が余計に掛かる心配はなさそうである。
もっとも保険制度には,外にも政府管掌社会保険や,各種共済組合・企業別健康保険組合の保険などがあり,それぞれ被保険者・家族の年齢的,身体的,社会・経済的条件にはある程度の差異があり,それぞれインフルエンザ流行に際して,どのような影響を受けているのか,興味のあるところだが,今のところわれわれの手には負いかねる。
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