II.調査研究
3.成績
B.県内のワクチン非接種地域と接種地域の流行状況比較
3)死亡率曲線による比較

インフルエンザの流行にともない,慢性の呼吸器疾患や心疾患,リウマチ,糖尿病,腫瘍による死亡が増加することが知られている。直接の死因は,肺炎や心不全である場合が多く,したがって乳幼児には少なく,高齢者に著しく多い。これらの死亡は,超過死亡率の形で流行の指標として用いられている。超過死亡率は,インフルエンザの流行のなかった時期の月別死亡率から,年内各月における肺炎およびインフルエンザによる死亡率の期待値を計算する。この値をもとに期待死亡率曲線を描き,それに実際の死亡率曲線を重ねて見れば,期待値曲線を上回る部分として,超過死亡率を目の当たりに見ることができる。

しかし,われわれには,期待死亡率を求めるのに充分な死亡統計資料が得られないので,過去10年間の平均月別死亡率を基準にして,ワクチン接種中止前後の死亡率の変動状況を見ることにした。

〔図7〕は,群馬県,前橋市,高崎市の月別死亡率曲線を描いたものである。既述のごとく,高崎市は毎年接種率が80%を越える隣接市である。細い線で描かれた年毎に同じ波形の曲線が,平均死亡率曲線である。いずれの図においても波形に大きな差は認められない。太い線が実際の死亡率曲線だが,とくに前橋市において,ワクチン中止後の実際死亡率が,インフルエンザの流行期に一致して平均死亡率を大きく上回るような事実は認められない。すなわち,間接的にではあるが,学童の集団接種を止めたからといって,超過死亡が増加したとは考えられない。


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