III.われわれの見解
1.インフルエンザの特殊性

インフルエンザが麻疹や水痘と異なるのは,次の諸点であろう。

  1. 爆発的な流行を毎年のように繰り返すこと。
  2. 上気道粘膜に限局した病変で,ウイルス血症を殆どおこさないこと。そのため,潜伏期が短いこと。
  3. ウイルスが激しく変異すること。
  4. 免疫成立が不完全で,且つ持続が短いこと。

このため,インフルエンザの流行を阻止するには,他の疾患と異なる対策が必要である。インフルエンザが爆発的に流行を繰り返すのは,ウイルスの感染力が強力である一方,感受性者が多いためである。感染しても,獲得される免疫が不完全で,且つ持続が短いのは,ウイルスが上気道粘膜に限局してウイルス血症をおこさないためと考えられるが,このため,感染既往があっても,感受性者でありつづけることになる。だから,もし,ワクチンで感染を防ぐとすれば,人口と同量のワクチンが必要になってしまう。その上,ウイルスの変異があって,毎年違うワクチンを製造しなければならない。この様な事情から,不活性化ワクチンを流行阻止に使うのは実際的でないというSabinの意見もある。

これに対し,わが国の考え方は,学校をインフルエンザウイルス増殖の場と捉え,学童,生徒にワクチンを接種することにより,社会全体を防衛しようとするものである。この考えが成立するためには,幾つかの前提条件が必要なことは前に述べた。しかし,インフルエンザ流行阻止の突破口をここに求めなければならなかったのも,インフルエンザという病気の特殊性に由来するのであろう。


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