III.われわれの見解
3.インフルエンザワクチンによる感染防禦
1)罹患をとるか,感染をとるか

ワクチン効果の指標として,罹患をとるか,感染をとるかによって,効果判定に著しい相違がみられる。通常は罹患調査が行なわれるが,この場合,他の感冒のまぎれ込みを防ぐことは困難である。

抗体変動により感染を調査することは正確であるが,この場合にも問題は存在する。その一つは何を指標とするかである。通常行なわれるHI抗体を測定した場合,抗体価の高い群では,感染しても抗体上昇をみとめず,このため,ワクチン効果が高く計算されるという指摘がある。

即ち,本間らの調査によれば,HI抗体で計算したワクチン有効率は44.2%であったが,この値は実際の内容を反映しておらず,NP抗体から得た15.8%が実際に近いという。

もう一つの問題点は不顕性感染である。われわれの調査によれば,抗体上昇を示しながら,症状を呈しなかった者が,各流行期に20%程度存在した。これらの者をどう扱うかは,成績に重大な影響を与える。感染があっても,発病しなければ,インフルエンザと診断することは出来ない。個人防衛の見地からは,不顕性感染者は「守られた」と考えて良いはずである。しかし,一方,これらの者はウイルスを排出する可能性があるから,流行阻止の上からは無視出来ない。(われわれも無症状の者からウイルスを分離している。)

一方,罹患率を調査する場合には,欠席調査が中心となるが,この場合,如何にして他の感冒性疾患を除外するかが問題である。発熱を条件とするのが普通であるが,この場合でも,箕輪らは38℃以上をとり,本間らはは37℃以上の発熱をインフルエンザとすることで実状に合致するとしている。何れをとるにせよ,こうした方法で欠席者の中からインフルエンザの濃い群を抽出することが出来そうである。しかし,この場合にも,症状調査に用いられるアンケートの不確かさという問題を抱えることになる。更に,不顕性感染に代表される軽症者の見落としも無視できない。

それ故,何れの数字をとるにしても,相対的指標に過ぎないことになるが,そうした限界を弁えた上で,出来るだけ真実にせまる努力をしなければならないであろう。

われわれは,学校に於ける流行の指標として欠席率を用い,保護者に欠席の都度,症状を記入した欠席票を提出して貰うことでこれを補った。

更に,感染調査としてHI抗体を測定した。もち論,われわれの調査も完ペきではない。しかし,流行の実態をかなり正確に把握し得たと考えている。


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