私の子供は、麻疹(はしか)の予防接種を受けています。でも、最終的に「受ける」と決めるまでには、いろいろと調べ、考え、悩みました。参考になることがあるかもしれないので、そのときの経緯を書いてみます。一番大きな問題だったのは、私と妻の結論が違っていたことでした。まず、私は、麻疹の予防接種は受けなくてもいいという判断でした。その理由は、以下の三つにまとめることができそうです。一つめ。No.177 にも書きましたが、私は、予防接種を打って病気を避けたり、薬を使って症状を軽くしようとすることに対して、「本当に大丈夫かな?」と疑問を持っています。子供は、いろんな病気にかかりながら、抵抗力を高めていくもの。だから、どちらかというと、子供の病気は「歓迎」したいほう。もちろん、明らかに死亡率が高い病気であれば、予防接種も受けさせたいと思っています。二つめ。それでは、麻疹にかかったときの死亡率はどれくらいでしょうか。麻疹については、いろんなところで、病気の恐ろしさ、死亡率の高さが強調されています。しかし、私自身、子供のときに麻疹にかかっていますし、麻疹で死亡したという話も聞いたことがありませんから、いまいち麻疹の恐ろしさが理解できません。どうやら、ここが一番のポイントになりそうです。この点について、ちょっと詳しく書いてみます。私が調べた限り、麻疹にかかった場合の死亡率は、1,000 分の 1 から 10,000 分の 1 の間。バラツキがあるのは、推計方法が異なるためです。感染症情報センターなどでよく使われている数字は「 0.1% 」( 1,000 分の 1 )。ただ、古いデータをもとに推計されているため、信頼性はいまいちです。一方、同じく感染症情報センターは年間 10 万〜 20 万人の罹患者がいるとも推計しています。そして、人口動態統計で調べると、麻疹の死亡者数は年間 10 〜 20 人くらい。ここから計算すると、死亡率は 1 ケタ低下して 0.01%( 10,000 分の 1 )。でも、こちらも、罹患者数の推計根拠が不透明なので、死亡率が過小に算出されている可能性も考慮に入れておかなければなりません。おそらく、真の死亡率は、両者の中間のどこかにあるのでしょう。私は 10,000 分の 1 に近い方にあると睨んでいますが。。。http://idsc.nih.go.jp/others/topics/measles/measles_top.htmlしかし、こうした死亡率の絶対値だけでは、高いのか低いのか、よく分かりません。では、ちょっと麻疹から離れて、病気とか事故とか様々な要因による一般的な子供の死亡率を調べてみましょう。まず、1 年間の子供の死亡者数を人口で割って死亡率を計算してみると、この投稿の最後のグラフにもあるとおり、だいたい 5,000 分の 1 くらいになります。すると、10 歳になるまでの死亡率は、9 年分足し合わせて 500 分の 1 くらい。つまり、1 歳の誕生日を迎えることができた 500 人の乳児のうち、1 人は 10 歳まで生き延びることができない。私は、この一般的な死亡率を眺めて、1 回こっきり麻疹にかかって死亡する確率は、強調されているほど高くないという判断に傾いたのです。むしろ、普通に生活していて死亡する確率も意外と高いのではないか。みなさんは、こうしたリスクを意識したことがありますか? もっと身近な例を挙げるなら、麻疹にかかって死亡する確率は、交通事故で死亡する確率と同じくらい。私たちは、普通に、こうしたリスクと隣り合わせに生きているわけですね。三つ目。ブースター効果が得られないかぎり、予防接種の効果は確実に低下していくため、将来にわたって何度も予防接種を受ける必要がある。もちろん、いずれ麻疹ウイルスが根絶されることが確実なら、予防接種を受けておいてもいいかもしれません。でも、根絶できるという確たる展望は開けておらず、自分の子供が大人になったときにも小流行が続いている可能性が高そう。なにより、大人になって麻疹にかかると、重篤化して入院間違いなしといわれている。だったら、何度も予防接種を受けさせるより、子供のうちに自然感染する方がベター。そもそも、大人になって麻疹の予防接種を受けようという人が少ないから、2000 〜 2001 年のように、麻疹による死亡者が、子供と成人とで半々の割合になってしまうのです。一方、妻は、麻疹の予防接種は受けるべきだと判断しました。理由は一つ。たとえ低い確率でも、少しでも死亡するリスクを下げることができるのであれば、積極的に下げるべきだ、というわけです。もともと、妻は、ちょっと風邪をひいただけ、って分かっていても、あれやこれやと悪いことばかり想像してしまう過度の心配性です。確かに、予防接種を受けることにより確実にリスクは低下しますし、予防接種の副作用で亡くなる確率と、麻疹に罹って亡くなる確率を比べても、後者の方が圧倒的に高いと思います。このように、二人の意見は正反対でしたが、結局は、予防接種を受けることにしました。最終的に結論を下したのは、合理的な判断などではなく、「えいやっ」です。つまり、(1)実際に子供を産んだ母親としての直感を信じて、(2)妻の不安を和らげるため、の2点から、私が自分の考えを引っ込めました。しかし、私は、いまでも予防接種は受けなくてもよかった考えています。そして、できれば Primary Vaccine Failure(ワクチンによって抗体価が上がらなかった)であって、いずれ自然感染してほしいと密かに願っています。