近年、インフルエンザに続く脳症(ライ症候群)が、ある種の解熱剤によって起こる可能性がしめされました。これによって、インフルエンザが疑われる発熱時に使用すべき解熱剤は、種類を限定し慎重に使用されることになりました。このようなガイドラインが示されると、「解熱剤によって脳症が起こるのは、むやみに熱を下げるからだと」単純に思い込みがちです。しかし、その短絡的な思い込みには矛盾があったのです。もしも、解熱をすることが脳症の直接的原因ならば、すべての解熱剤が使えないことになります。しかし、解熱剤であるアセトアミノフェンなどは禁忌(使用できない)ではありません。この矛盾はどういうことなのでしょう。著者はこのような仮説を述べています。解熱剤には他に「鎮痛」と「消炎」の作用があるが、この消炎(炎症を鎮める作用)が問題なのではないか。解熱剤には解熱鎮痛だけの作用のものと、消炎作用をあわせもつものがあるのですが、ライ症候群と関係するのは後者のほうです。ところで、炎症反応には、(1) 感染した部位に免疫を集中させる。(2) 血流を鈍らせウイルスの流出を鈍くする。という作用が期待されます。薬物によって炎症が抑制されると、ウイルスにとっては有利な環境になるというのですね。さらにインフルエンザウイルスは発熱した環境でもあまりダメージを受けないといいます。これをさかさまに考えれば、インフルエンザにおいて、発熱は防御反応になっておらず、この作用を抑えても、病状の悪化にはつながらないというわけです。インフルエンザと解熱剤と脳症の関係は、ただしくは消炎剤(抗炎症剤)作用のある薬に注意すべきということになり、発熱のコントロールが問題ではないという仮説になるわけですね。