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インフルエンザワクチンについての開業医の研究から


群馬県保険医協会・前橋市開業
中田 益允


「前橋リポート」作成に参加して

私は前橋市に住む一小児科開業医である。もう今から19年も前のことになるが、私は1981年に結成された前橋市インフルエンザ研究班(班長、故由上修三氏)に属し、1987年1月発表の研究班報告書〔注1〕いわゆる前橋リポートの作成に参加した。

前橋リポートは、現行のインフルエンザHAワクチンには流行を防ぐ効果はないことを立証した。そして、国のインフルエンザ特別対策の中止に大きな役割を果たした。

この政策は、社会防衛論の見地に立ち、1962年から25年間にわたり、行政指導により小中学生に対してほとんど強制的に集団接種を行うことにより、社会の流行を防ごうとするものであった。それは結局、仮説に過ぎなかったが、巷間、学童防波堤論と呼ばれた。

今更何で古い話を持ち出すのかといわれるかもしれない。しかし最近のワクチンキャンペーンの有り様をみていると、やはりその源はここらにあると思われたので、以下に私見を書かせていただく。

インフルエンザは、常に「新しいウイルス」によって起こる古い病気である。歴史的に見るということは、単にウイルスの進化ばかりではなく、予防政策の有り方の検討についても役立つのではなかろうか。病気の流行にとって、政策もまた重要な環境因子の一つだと思われるからである。

「前橋リポート」と厚生行政

前橋リポートが発刊されて間もなく、1987年6月、厚生省のインフルエンザ流行防止に関する研究班(班長、福見秀雄氏)が報告書を発表した。その総括報告の論旨ははなはだ分かりにくいものであったが、当時の私の理解をもとに要約すれば以下のとおりとなる。

(1)小中学生に対する集団接種によって地域の流行を防止することについて確実に判断できるほどの十分な研究データはない。

(2)しかし現行ワクチンの能力は完全なものではないが個人には利益を与えている。新しい病原性の強いウイルスによる流行や、高齢者やハイリスク者に対する接種対策を検討する必要がある。

(1)は苦心の間接的否定の表現だと感じたが、とにかくこれまでの政策プログラムの根拠は、25年掛けてもついに仮説のままに終わったということを認めたものと理解した。これで集団接種を続ける根拠はなくなったと考えた。それならばなぜ集団接種は直ちに中止するべきだと明快に書かないのか。これに対する疑問の方が大きかったために、(2)について、またもやアメリカ流を見習った生き残り策かとやや軽い受け止め方に止まってしまった。

最近私は、ある医学部図書館が取り寄せたという厚生省研究班報告書の抄録の提供を受けて読む機会があった。

抄録は、まず目的としてインフルエンザワクチンの有効性と接種体制の見直しとハイリスク群への接種推進策を検討したとし、結果と考察の要約は以下のとおり記されていた。「この10年程のインフルエンザ流行は小規模であり、今後もこの程度の流行で済むと仮定すれば、学童に画一的に接種を行う必要性は低いのではないかと考える。しかし、かつてのアジア風邪の流行のような病原性の強いウイルスによる大流行が起こる可能性についても否定はできず、社会不安を招かぬよう慎重な配慮が必要である」と。

これは、厚生省研究班報告書における総括報告中間部分の抜き書きであり、(1)部分は省略されたとしか思えないものであった。一読、私はこれは変身を図ったのではないかと感じざるをえなかった。

さて、欧米諸国のワクチン政策の目標は、すでに1970年代以降、インフルエンザの流行予防ではなく、ハイリスク者や高齢者の症状軽減であり延命策であったといわれる。

過去において、流行を予防しようとした政策は二つしか知られていない。一つは1976年、アメリカのブタインフルエンザに対する接種プログラムであり、もう一つはわが国の学童集団接種政策である。

前者は、流行そのものが発生せず、ギランバレー症候群の多発という副作用の記録を残して1年で終了した。後者は、1962年から30余年にわたり続けられたが、ついに有効性の評価は行われず、流行が抑えられたという実績も残すことなく、1993年に廃止された。

今や、現行ワクチンによる流行防止は不可能の課題であることは世界共通の認識となった。二度と同じようなプログラムが登場する可能性はないであろう。

そして1994年、わが国の予防接種法は改正された。インフルエンザは任意接種の一つとして残されるに止まった。私には、まさにインフルエンザ予防接種は一から出直しだと思われた。

突然のワクチンキャンペーンと政策の転換

ところが1997年、突然マスコミはインフルエンザへの恐怖を煽り、ワクチンキャンペーンを開始した。老人ホームでのインフルエンザ死が大々的に報じられ、その冬の香港におけるトリA型ウイルスの流行はあたかも大流行が身近にせまったごとく報道された。続いて子どものインフルエンザ脳症がクローズアップされた。

故由上班長は、インフルエンザに関する最後のエッセイの中で「昔の大本営発表」だといっておられたが(群馬評論、70号、1997年春)、厚生省とマスコミの関係をよく言い当てていると思われる。

一部の学者や臨床家は予防接種法改正の頃からすでにキャンペーンを始めていた。「インフルエンザの予防対策はワクチン以外にはない」という命題をよく見かけた。

ただしそのあとに「現行ワクチンの有効性は必ずしも十分とはいえないが―」という文言が付く場合もあり、付かない場合もあった。昨年、厚生省はインフルエンザ総合対策を策定するとともに、特定感染症対策や対策要綱などを矢継ぎ早に公表したが、もちろんあとに続く文言はない部類のものである。

今年2月、日本医事新報誌に載った広田良夫氏(大阪市大公衆衛生学教授)の談話は以下のとおりである(日本医事新報、2月5日号)経歴によれば、氏は1981年から87年まで厚生省の官僚であった。

「ワクチンが有効なのは当たり前の話で議論の必要はない」「小児科関係の学会や医師会レベルで、過去のいい加減な発言や今もいい加減なことを言っている人を、同じ仲間として否定していただきたい」と。

氏の談話を読み、先の変身した抄録と考え合わせてみると、厚生省は、すでに1987年の時点で、流行予防のワクチン政策から欧米流のワクチン政策に乗り換えていたという既成事実を作りたかったのではないかと思われる。そればかりか、ワクチンの有効性に関する疑問や反証を無視し、合理的な政策変換の説明を省き、新しい政策の根拠についての検証をあらかじめできるだけ忌避することにした姿勢が透けて見えるような気がする。

ワクチン政策の変換は、接種対象者の最優先ターゲットを、かつての健常な青少年から高齢者およびハイリスク者に切り換えたことを意味する。かつて病人は禁忌対象者でさえあったのだから大変換のはずである。たとえそれが欧米諸国では常識であるとしても、わが国のワクチン応用の歴史は違う。なぜ早くからそうしなかったか、そしてなぜ今そうするのかの説明は必要である。

ワクチンの有効性について、厚生省研究班報告書の外国文献に関するレビューを素直に読めば、現行ワクチンにはとても流行を抑えるほどの感染防御力やウイルス排出抑制効果は認められない。しかしある程度の症状軽滅効果は認められ、生理的機能が低下したり基礎疾患のある高齢者やハイリスク者では重症化を防ぐ効果がある。しかし常に平均的な一定の効果があるというわけにはいかないということになろう。

EBMと有効性

最近の The Tnformed Prescriber 誌に掲載された山本英彦氏(大阪赤十字病院小児科)によるEBMに基づくレビューによれば〔注2〕、未だに小児に対して有効性を示す研究データはなく、一般成人および高齢者に対する有効性についても、国内には信頼に足るRCT文献はなく、外国においても信頼性の高い文献は限られているということである。ましてやわが国のHAワクチンの適用については、もしもエビデンスに基づいて行うというのであれば、まずRCT研究を行うことが先だと述べられている。(RCTはRandomized Controlled Trial.の略)

最近、小児科領域において、わが国ではインフルエンザに伴う脳炎・脳症の発生率が高いことが問題になっている。ワクチン推進論者は、これはワクチン接種率の低下が原因であり、ワクチン接種によって予防できるといっている。しかしいずれも仮説の域を出ない議論であり、以前の対照資料はなく、発症病理も未だもって不明である。

その後、脳炎・脳症の発症には、解熱剤として広く用いられている非ステロイド系消炎剤との関連性を強く示唆する疫学データが示されたが、この点について、ワクチン推進論者は積極的に触れようとはしていない。

それにしても、今押し進められている厚生省のインフルエンザ対策やワクチン政策のキャンペーンは、始めにワクチンありきで、脅しと文句を言わずに信じろという姿勢に貫かれているように見える。

もしこれを接種という医療行為の現場に即して見れば、果してこれでインフォームドコンセントが成り立つのかと思わずにはいられない。たとえば、子どもの「予診票」の第1問は、厚生省が作成した説明書を読んだというところに○がついていることを確認すれば、医師の説明義務は果たされたこととなり、最後に保護者が「はい」に○をつけ署名すれば、自己決定が行われたと判断される仕組みである。しかし、今のように、子どもに対するワクチンの有効性に関する見解が真っ二つに割れているような状況下では、結局医師自身がまず先に、やるかやらないかの選択をする外に道はないであろう。

法が勧奨する接種だから責任は行政に取ってもらうという契約の下で接種が行われているところもあると聞くが、おそらく医師不信というもっと大きなつけが回ってくることを防ぐわけにはいかないのではなかろうか。

高齢者やハイリスク者に対する接種では、たとえその効果に疑問があるとしても、ある程度効くというなら接種しておくことも無駄ではあるまいという臨床的発想による接種が多いのではなかろうか。しかし、インフルエンザ死亡の実態やこれら新規対象者に関する現行HAワクチンの有効性に関する調査研究データは今なお貧弱である。

副作用に関する情報もまた乏しい。最近、ワクチン接種後に間質性肺炎を起こした高齢者の症例報告があった(日本医事新報、1月22日号)。今後接種者が増えていけば、同じような副作用例もまた増えていくであろう。しかし従来、厚生省は、副作用情報への反応と開示にはきわめて消極的であったのが歴史的事実である。医師として十分慎重に対応した方がいいと私は思う。

今度は内科医の出番

そして厚生省に対しては、ワクチンコマーシャルではなくて、確かなインフォームドコンセントが成り立つような科学的根拠、すなわちエビデンスを示してもらいたいと思う。

それにつけても、従来、新ワクチン導入の多くは小児を対象とするものだった。そこで私の属する前橋市医師会では、新ワクチン導入の際には、小児科医が中心となり、実際接種に当たる医師として有効性や副作用の検証を行ってきた。

しかし今回は主として内科領域への、新ワクチン導入といってもいい事態の到来である。今度は内科医の出番ではないかと問いかけているところだがいかがなものであろうか。



(本論考は「群馬保健医新聞」3月号に掲載されたものを一部修正補筆したものである)

〔注1〕報告書の題名は「ワクチン非接種地域におけるインフルエンザ流行状況」(トヨタ財団、市民研究コンクール「身近な環境をみつめよう」に応募、研究助成を受けた)。作成、発表までの経緯や内容は、由上修三著『予防接種の考え方』大月書店、科学全書42、1992.に詳しく紹介されている。

〔注2〕医薬品・治療研究会発行「正しい治療と薬の情報」1999年5月号に掲載されている。前橋リポートについて資料を引用し評価をしていただいたことに感謝する。

 
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