II.調査研究
3.成績
C.小学校の欠席率によって見たワクチン効果
2)比較対象地域の設定

ここでは,ワクチン非接種地域と接種地域の比較が主たる目的なので,県内11市のうち,5市を選んで比較検討することにした。

非接種地域としては前橋市と安中市,接種地域としては高崎市と桐生市と伊勢崎市を選んだ。

接種地域として3市を選択した理由は,分かりやすさということも考えてのことではあるが,外にもそれなりの理由がある。

高崎市は県内で前橋市に次ぐ人口を持つ市であり,市としての規模も地理的条件にも大差はない。かつ前橋市の西側で境を接している。県内交通の要地として人の出入りも多い。従来インフルエンザワクチン接種には熱心なところで,常に接種率は80%を下ったことがない。この点では前橋市と対称的である。

安中市は,その高崎市の西側に接し,碓氷川の周辺に広がる人口5万に満たぬ小さな市である。

人口からいえば,高崎市の次は桐生市そして伊勢崎市の順になるが,初めに伊勢崎市について言えば,前橋市の東南で境を接し,通勤通学などで前橋市との間に人の流れが多い市である。また南は埼玉県に接し,東武線あるいは本庄市経由で高崎線により,東京方面とも交通は盛んである。そのためか,インフルエンザの流行開始はいつも早い方である。

一方桐生市は,前橋市から東方へ三つの町村を間に置いて,栃木県との県境に接する市である。県内平野部のうち東南部地域の流行を代表してもらった。桐生市,伊勢崎市のワクチン接種率は同じくらいであり,1984年度はそろって59%,1985年度にはそれぞれ47.7%に51.0%と,約10%前後の低下を示した。ちなみにこの年,高崎市は85.6%から80.5%へと約5%の低下であった。

県内各市小学校の流行状況を総欠席率の分布状況から見ると,1984年度は,40%〜50%の群と25%前後の群の二群に分けられたが,3市とも前者の群に属していた。1985年度も3市の総欠席率に大差はなく,流行期間と最高欠席率から推定した流行規模「大」「中」「小」三つの群のうち,3市とも「大」の群に属していた。

以上のような訳で,比較対象にこれら3市を選んだことには妥当性があると考えている。

県内11市の残りの6市の成績を加えても,全体としての数値に,結論を変えねばならぬような変化は見られないが,山間部の地理的環境を異にする人口4万〜5万の市を加えることは,かえって比較を困難にすることが多いと考えた。


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