II.調査研究
3.成績
D.HI抗体価によって見た小学校のインフルエンザ流行
(前文)

以下に,HI抗体価によるインフルエンザ流行状況の観察と分析の結果について述べる。

インフルエンザの免疫に関与する液性抗体には,大きく分けてまず血中抗体として,ウイルス中和抗体・HI抗体(血球凝集阻止抗体)・抗ノイラミニダーゼ抗体,その他補体結合(CF)反応等によって検出される数種の抗体と,そして呼吸器粘膜表面に分泌されるIgA抗体がある。中でもHI抗体は,血中抗体の中では感染防御に有効であることは広く認められており,その血清の希釈倍数によって示される「抗体価」は,インフルエンザに対する免疫の程度を示す指標として,またインフルエンザの臨床における血清学的診断法にも広く利用されている。検査手技も比較的容易であり,多数検体を比較的短い時間で処理する方法も開発されている。

そこで,われわれもHI抗体価によって流行の実態を見ようと試みたわけであるが,いかに容易な方法となったとはいえ,市内学童全員についてHI抗体価を測定することは不可能なので,II−2に述べたごとき対象と方法をもって実施した。あえてもう一度強調しておきたいことは,われわれが行ったことは,小学校の同一児童約600人を2年生の時から6年生になるまで,5年間にわたり継続して追跡したということである。いまだかってわが国にそのような報告のあるのを知らない。これらの資料については,まだ検討すべき点を多々残しているとわれわれは考えているが,ここでは現時点までの検討結果を元に,すでに述べてきた問題点の幾つかにある程度の照明を当て,さらに今後知らなければならない点について問題提起を試み,そしてこれから行われるかも知れない同趣旨の調査研究のために,対照ないしは参考資料を提供しようとするものである。

この章においても,主眼点は集団免疫の動向に絞られており,前の章までに種々検討を重ねてきた問題に,免疫ないしは血清疫学の面から,われわれの出来る限りの解答を求めようと務めてきた結果である。


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