III.われわれの見解
3.インフルエンザワクチンによる感染防禦
3)継続調査の必要性

インフルエンザは,毎年に違った顔で登場する。その上,感染既往が流行を修飾するから単年度の調査で真実を捕らえることは困難である。

Hoskinsらは,7年間にわたって同一小児にワクチンを接種しつつ観察した。初めてワクチンを接種した年は有効であったが,次の流行の時には,最初のワクチンが次の変異株ワクチンの効果を制限するため効果が見られなかった。そして,結局,全期間を通して見ると,接種群と非接種群に罹患率の差が見られなかった。このことから,「driftがあっても,自然感染で免疫になった子は防がれる。新型が出現した時,その型のワクチンを注射すれば効果があるが,その効果はshort-livedである。次に出現する変異株のワクチンが効かないから結局は罹患してしまう。小児に毎年ワクチンを接種することは no long term advantage である。」と結論している。

この研究にたいして園口らは,「罹患率調査であることが問題」と指摘している。感染率でみれば,感染免疫はそれ程持続しない筈という意見である。しかし,われわれは,同一児童におけるHI抗体価測定を5年間継続し,自然感染による免疫がかなり良く保たれることを証明した。(II−3−D参照

一方,Smithらは,post office従業員について5年間観察した。彼等はワクチンを接種する局としない局とを設定し,病欠調査を行なった。その結果,ワクチン群の方が欠勤率が低く,ワクチンはコスト的にひきあうと計算された。しかし,欠勤率の低下は,インフルエンザ流行期以外にも見られたので,ワクチンにより健康及びインフルエンザに関心が高くなった結果(placebo effect)かも知れないとした。そして,「インフルエンザワクチンは良い結果を得たが,インフルエンザ阻止効果は弱い。少ないとしても,ギランバレーのような副反応のあることを考えておかなければならない。副反応が起こり得ることを労働者が知れば,(それが医学的にワクチン効果を打ち消すほどのものでないとしても)ワクチン接種は受入れられないであろう」と述べている。

ワクチンの実用的価値を決める上で,この様な継続調査が極めて大切であると思われる。インフルエンザは,過去の流行,気象条件,生活習慣,社会情勢等によって修飾され,年々その様相を変える。これに対して単年度調査で対応していると,「効いたように見える年」と「効かないように見える年」とが交互に現れて判断に迷うばかりである。

われわれが,同一学童を5年間にわたって追跡した理由もここにあった。その結果,ワクチンを止めても大きな流行にならないこと,感染免疫がかなり保持されること,等を知ることができた。


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