III.われわれの見解
4.感染免疫の役割

インフルエンザの感染免疫は,他のウイルス性疾患に比し弱いとされている。しかし,1977年,20年ぶりに再登場したH1N1型に対し,20歳以上のものは抗体を保持しており,流行は20歳以下の層に拡大した。このことは,感染免疫が弱いながらも保持されており,それが,流行を強く修飾していることを示すものであろう。また,自然感染による免疫は,多少の変異に耐えることが知られている。インフルエンザウイルスが連続変異を繰り返して,凡そ10年で不連続変異するのは,人の感染免疫に対応するものであり,ワクチンによる免疫によるものではない。つまり,10年の間に総ての人が2〜3回の感染を経験し,その免疫能は最早流行をおこし得ないレベルに達してしまうのであろう。

われわれは,5年間の追跡調査において,前回の同型感染が(かなりの抗原変異に拘らず)強い感染防禦効果を示すことを立証した。そして,感染を繰り返すことによって,それが更に強化されることを見た。(II−3−D参照

Hoskinsの成績を見るごとく,感染防禦は過去の感染歴に左右され,ワクチンによる修飾は一過性に過ぎないと考えるべきであろう。大山らが,1979年のH1N1型流行について,「ワクチン接種とは無関係に,今回の流行は前回流行を免れた地域の25歳以下のものに限られた。」とのべているのも,同様の所見である。

前年と同型のウイルスが持ち込まれた年には,流行は小さくなる。そして,この時には,ワクチンと流行株の抗原が一致するわけであるが,ワクチンが流行を抑えたわけではない。ワクチン効果を論ずる際,このことも忘れてはならないであろう。

小児は感染を受けつつ免疫を身に付け,同型のウイルスに対して抵抗力(感染しない,または感染しても発病しない)を持つようになってゆく。この過程は,ワクチン接種の有無と無関係であろうと思われる。それ故,学童自身にとっては,ワクチン接種は利益にならないのではないかと,われわれは考えている。


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