III.われわれの見解
6.ハイリスクグループヘの接種

健康学童への接種は,我国だけのポリシーである。諸外国においては,専らハイリスクグループへの接種が勧められている。我が国も,そうした方向に転換すべしと言う意見は多い。

例えば,水谷は,「この様なワクチンで,社会防衛を果たして行くことは,現実的には極めて困難と考えられる。現行ワクチンでは,感染を完全に阻止することは困難であるが,罹患時の症状を軽減させる効果はあるようであるので,ハイリスクの人達や,一時的にでもインフルエンザに罹患すると困る人達を主な接種対象にして行くべきではないかと考えられる。」と述べ,北山は,「学童集団接種の有効性についてであるが,果たしてインフルエンザの流行緩和に有効な手段として働いているのか,その解析は困難であり,また,明確な解答も今日まで得られていない。学齢期の小児が最も高い罹患率を示すことや,流行が学童から始まり,流行増幅的役割を果たしていることなどについても,流行によって必ずしも同一ではないし,実際の社会での流行阻止,罹患率や超過死亡の減少に対する正確な具体的なデータも残念ながら得られていない。」と結んでいる。また,座談会の記録ではあるが,木村三生夫の「被害を受け易い人を守ると言う方式も,日本でも,もう少し取り入れたらいいのではないか」という発言に対し,平山宗宏は「私個人は,私の父親にはワクチンの注射をするけれども,私自身や子供にはやらない。」答えている。

また,高橋らは,インフルエンザによる高齢者の死亡について免疫学的解析を行ない,インフルエンザによる若年者の死亡は著減したが.65歳以上は増加しているとし,高齢者をインフルエンザワクチンの対象にすることを検討しなければならなと主張している。そして,同氏等は,高齢者にワクチンを接種して,約半数にHI抗体上昇を見たという。また,基礎疾患を有するもの,血液透析患者への接種を試みた報告もある。

インフルエンザワクチンで流行を阻止することは困難としても,症状を軽減する可能性が有るとすれば,学童への強制接種を止めて,高齢者,有疾患者に接種を奨励するべきかもしれない。しかし,この場合でも,ワクチンの非力が気になるところである。

先に記した,米国調査団報告書で,「USAではハイリスクグループにワクチンを接種することが勧められている。然し,この場合にも,短期間の観察による防禦効果に基づいており,毎年ワクチン接種を行なった場合インフルエンザ関連の死亡を減らせる証拠はない。何方にしても,注意深い長期間の研究が必要であろう。」と述べ,水谷が「医学的にみれば,インフルエンザ罹患時,特に重症になり易い人々,すなわち,老人や小児,結核,気管支喘息,糖尿病患者などが対象になろう。ただし,これらの人々は副作用にもとくに敏感と考えられるので,HAワクチンの実用化後副作用が激減したとはいえ,慎重な接種が望まれる。」と指摘していることも,傾聴に値しよう。


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